2009-01-29

シャンゼリゼ劇場に通う


パリオペラ座、シャトレ座、プレイエル、ガヴォー、シャンゼリゼ劇場と、コンサートホールが溢れる芸術の都パリ。学生がお手頃価格で一流の音色を楽しめるのもパリならではのリュックス。数ある劇場の中でもオススメはやはりシャンゼリゼ劇場(Théâtre des Champs-Elysées)。高級ブランドが集うモンテーニュ通りに位置する華やかな場所だけあって、プログラムも一流です。プログラム売りのお兄さんに、少しスノッブな客層、幕間のアイスクリーム売りのマダム。昔から変わらない独特の雰囲気が漂う劇場なのです。協賛しているシャンパンが王者のRuinartなのも流石。
さてさてこのオシャレで高級感溢れる劇場、お気軽に楽しめる価格設定が魅力の一つです。先日は5ユーロで世界のテノール、ヴィラゾンとバリトン、ターフェルを観劇。席は天井席で立見同然。お値段もさることながら、こっそりと天井裏から覗いている感が結構ツボになってしまいます。その2日後には世界のピアニスト、キーシンを鑑賞。素晴らしいショパンの演奏に酔いしれた夜でした。アンコールでは2階から投げられたブーケが散らばり、スタインウェイの上にバラが降って来ました。はにかむキーシン氏が微笑ましく、観客のレベルが高いパリでのスタンディングオベーションでこの日は幕を閉じました。小さな劇場には拘りのある客層が集まるものです。隣の人たちと音楽トークに花を咲かせるのも楽しみの一つ。しっかりと計画さえすれば(チケットは全てシーズンが始まる9月1日発売なので事前にチェック!)世界の音楽を肌で感じられるこの環境に、パリの魅力を再確認出来ます。

2009-01-09

巨匠


昨日フランス美食界の巨匠がこの世を去りました。


Gaston Lenôtreは1957年に自分の名前でもある"Lenôtre"をパリ16区にオープンします。戦時中には味わえなかった、マーガリンの味と香りとは格段に違う“バター風味”のフランス菓子を作ることでルノートルは瞬く間にパリジャンの舌を虜にしました。高級ケータリングも開始し、ヴェルサイユ宮殿での晩餐会や、パーティーではルノートルのビュッフェがお約束に。明日のシェフを育てるべく、自分の知識や技術を後輩たちに伝える努力を惜しまなかったルノートル氏は大勢のパティシェに慕わました。洋菓子界の風雲児ピエール・エルメは“毎日必ず、ルノートル氏に学んだ事を思い出す”と、コメントを発表。そんなルノートル氏の座右の銘は“甘い”と思いきや、“重量、寸法、正確さ”と厳格なモノ。製菓では、デザインや創造性は二の次である、と基礎の重要性をしっかりと後継者たちに伝えています。


私の幼少時の想い出の味はLenôtreのお菓子たち。週末になると車でパンやお菓子を探しに、夏になるとマンゴーとフランボワーズのソルベを楽しみにガラスを覗いては、口に広がる甘酸っぱい香りを味わうのがお決まり。初めてパリで受講した製菓教室もLenôtre。そして一度だけ、教室に訪れたルノートル氏と握手する機会に恵まれました。それはお菓子が大好きな生徒たちの奮闘振りを見学しに、杖をつきながら奥様に支えられて現れた時のコト。一人一人と握手されました。教室の先生はルノートル氏が退室された後に一言。“こうやって見に来てくださる度に感激してしまう。一番の励みになるんだ。素晴らしい方なんだ。”


あの時のしっかり握った手に穏やかな眼差し。まるで、しっかりと守られた基礎と味がもたらす幸福感のよう。それは美食を愛する、人間を愛する、優しいルノートル氏の創リ出した数々のお菓子たちそのものなのです。