2009-01-09

巨匠


昨日フランス美食界の巨匠がこの世を去りました。


Gaston Lenôtreは1957年に自分の名前でもある"Lenôtre"をパリ16区にオープンします。戦時中には味わえなかった、マーガリンの味と香りとは格段に違う“バター風味”のフランス菓子を作ることでルノートルは瞬く間にパリジャンの舌を虜にしました。高級ケータリングも開始し、ヴェルサイユ宮殿での晩餐会や、パーティーではルノートルのビュッフェがお約束に。明日のシェフを育てるべく、自分の知識や技術を後輩たちに伝える努力を惜しまなかったルノートル氏は大勢のパティシェに慕わました。洋菓子界の風雲児ピエール・エルメは“毎日必ず、ルノートル氏に学んだ事を思い出す”と、コメントを発表。そんなルノートル氏の座右の銘は“甘い”と思いきや、“重量、寸法、正確さ”と厳格なモノ。製菓では、デザインや創造性は二の次である、と基礎の重要性をしっかりと後継者たちに伝えています。


私の幼少時の想い出の味はLenôtreのお菓子たち。週末になると車でパンやお菓子を探しに、夏になるとマンゴーとフランボワーズのソルベを楽しみにガラスを覗いては、口に広がる甘酸っぱい香りを味わうのがお決まり。初めてパリで受講した製菓教室もLenôtre。そして一度だけ、教室に訪れたルノートル氏と握手する機会に恵まれました。それはお菓子が大好きな生徒たちの奮闘振りを見学しに、杖をつきながら奥様に支えられて現れた時のコト。一人一人と握手されました。教室の先生はルノートル氏が退室された後に一言。“こうやって見に来てくださる度に感激してしまう。一番の励みになるんだ。素晴らしい方なんだ。”


あの時のしっかり握った手に穏やかな眼差し。まるで、しっかりと守られた基礎と味がもたらす幸福感のよう。それは美食を愛する、人間を愛する、優しいルノートル氏の創リ出した数々のお菓子たちそのものなのです。

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